“クロノス・カルテット”特集

 Kronos Caravan / Kronos Quartet
アルバム名   Kronos Caravan
アーティスト   Kronos Quartet
製作年   2000
レーベル   Nonesuch
レコード番号   WPCS-10499

 現代音楽というと、不協和音が多かったりミョーなノイズが入っていたりといったアヴァンギャルドで分かりにくい音楽を想像する人も多いかもしれません。確かにそういう作品は数多くありますが、現在では耳に優しい音楽も増えていますし(というか最近の曲は聴きやすいものがほとんどです)、オリジナリティという面では他のジャンルの追随を許しません。そういったわけで私は好んで聴くんですが、その中でも最もとっつきやすいグループのひとつにクロノス・カルテットがあります。今回はそのクロノスを通じ、現代音楽の世界にみなさんを引きずりこみたいと考えています。

 クロノス・カルテットは1973年にサンフランシスコで結成された、バイオリン2本+ヴィオラ+チェロの弦楽4重奏団です。今までに彼らが取り上げてきた音楽は、ショスタコーヴィチやバルトークからピアソラやケージ、挙げ句の果てにはジミヘンまでととにかく幅広く、またそういうとんがった音楽に対する豊かな表現力には定評があります。個人的には世界で一番面白いことをやっている4人組なんじゃないかと思っています

 このアルバムは、そんな彼らの最新アルバムで、取り上げている音楽もいつも以上に多岐にわたっています。というのも、このアルバムの収録曲は『非西欧圏の大衆音楽』ばかりだからです。例外的にアメリカの現代音楽家、テリー・ライリーの曲が収録されています(これ、去年聴いた中で一番かっこよかった曲です)が、彼の音楽も西洋の伝統に則ったものではないので、あまり違和感はありません。またこの作品ではルーマニアのジプシー・バンド、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスとも共演しており、彼らの「ジャンルを問わずいいものを見抜く力」にはとにかく脱帽させられます。この新作は、今回紹介しているクロノスの3枚のアルバムの中で、一番クロノスらしい作品だと思いますし、世界各地の土着の音楽の素晴らしさを知ることができる意味でも素晴らしいアルバムだと思います。是非お試しあれ。



 Different Trains / Steve Reich
アルバム名   Different Trains
アーティスト   Steve Reich
製作年   1989
レーベル   Nonesuch
レコード番号   WPCS-5053

 そのクロノス・カルテットがグラミーで最優秀現代音楽賞を受賞したのが、1989年に発表された、スティーブ・ライヒ作曲の「ディファレント・トレインズ」というアルバムです。スティーブ・ライヒはこのサイトでも何回も取り上げているアメリカの現代音楽家で、私はとにかく彼のミニマルな音楽がたまらなく好きなんですが、これはその中でも特に気に入っている作品です

 このアルバムは、あらかじめ録音された話し言葉や汽車の音や汽笛をテープを使って反復させ、そこにクロノスの弦楽4重奏を重ねるというスタイルが取られています。そうした全ての音の重なり、または音のずれがお互いの要素を強調しあい、ライヒしか作り出すことが出来ない、まさに唯一無比の音楽を作り出しています。またライヒがクロノスのために作った曲というだけあって、クロノスらしさも存分に発揮されており、クロノスファンも満足できる1枚だと思います。....って、文字だとこんな風にしか書けないんだけど、これが本当にめちゃめちゃかっこいいんだって! 特にクラブなんかに通っちゃってる若者だったら絶対に気に入ると思います。このレベルの高い反復音楽は、彼らの脳神経を刺激すること間違いなし、と個人的には考えていますから。

 このアルバムのB面部分(CDだと後半部分)は、ジャズ・ギタリストのパット・メセニーのために書かれた「エレクトリック・カウンターポイント」という作品が、もちろんメセニー本人の演奏で収録されています。これはライヒの「カウンターポイント」シリーズの3作目で、これまためちゃくちゃかっこいいです(特に最後のパートはたまらんっ!)。『Fast - Slow - Fast』という3部構成のこの曲は、しかし音楽としては多少難解になっている気もするので、全ての人にはオススメしません。あくまで反復音楽が好きな人向けということで、ご理解いただきたいと思っています。



 Dracula / Philip Glass
アルバム名   Dracula
アーティスト   Philip Glass
製作年   1999
レーベル   Nonesuch
レコード番号   7559-79584-2(輸入盤)

 上の『ディファレント・トレインズ』がクラブ系な人々にオススメだったのに対し、このフィリップ・グラスの作品は、同じクロノスでもクラシック音楽を好んで聴く人にオススメできるアルバムで、今回紹介したクロノスの作品の中では、これが一番まっとうな弦楽4重奏団の作品という印象を受けます。

 フィリップ・グラスは、今回紹介したライリーやライヒに比べると個人的にはあまりぱっとした印象がないんですが、現代音楽を代表する作曲家の1人であることは間違いありません。あと知っていることといえば、たぶんアメリカ人ということくらいかな。無知ですいません。で、このアルバムは、そんな彼が1931年に製作された無声映画「ドラキュラ」(主演はベラ・ルゴシ)にあとから音楽をつけた、そのスコアです。私は映画を観ていませんが、ドラキュラのイメージ(私はドラキュラってのはとても哀しい存在だと考えています)にぴったりの、寂しげで哀しげな音楽にとにかく心をうたれました。去年の一時期、ひどく内省的な気分になることがあり、そんな夜はいつもこのアルバムをかけてましたね。そういう点でもひどく思い入れの強い1枚と言えます。

 ということで、今回、全く毛色の違う3枚のクロノス・カルテットのアルバムを紹介してみましたが、どれか興味の湧いた作品はあったでしょうか。なければ仕方がないですけど、あった人は是非これを足がかりにして現代音楽の世界に足を踏み入れて欲しいと思います。私にとってクロノスの音楽は、音楽として楽しいだけではなく、自分の内面に入っていくための補助みたいな役割も果たしてくれていて、とても刺激的な音楽です。もちろんみなさん音楽には何らかの刺激(または安らぎ)を求めていると思いますが、その中でも最良のひとつであるクロノスを、より多くの人に味わっていただけたら、1へっぽこサイトの運営者としてこれほどの喜びはありません。ということで、ひとつよろしく。