“おどろおどろしい曲”特集

 Fire Music / Archie Shepp
アルバム名   Fire Music
アーティスト   Archie Shepp
製作年   1965
レーベル   Impulse
レコード番号   IMPD-158(輸入盤)

 7月は、前半は梅雨でじめじめしているし、後半はとても暑くなるので、どんなアルバムを紹介したらいいかなあ、なんてちょっと迷いました。たぶんボサノバやラテンやフュージョンなんかを紹介すれば夏っぽくていいとは思ったのですが、あまのじゃくとしてその名を轟かす私としてはちょっとひねりを加えてみたくなり、今回は「おどろおどろしい曲が収録されているアルバム」を2つ選んでみました。これはこれで夏っぽい感じがしますよね。

 まずはフリー系サックス奏者のアーチー・シェップから。シェップはたぶん私が一番好きなフリー・ジャズのミュージシャンです。その演奏は奔放で力強さに溢れていて、またそこには当時隆盛を見せていた黒人思想が色濃く反映されていて、私はその「アグレッシブな知性」とおぼしきものにとても魅力を感じているのだと思います。最近は歳を取ってバラードなんかで情感たっぷりな演奏をしているそうで、それが特に日本で人気を集めているという話を聞きましたが、個人的にはそんな軟弱なシェップは認めません。まあ私が認めようが認めまいが誰も気になどしないと思いますが。

 この『ファイア・ミュージック』は彼の代表作のひとつです。特に1曲目の「ハンボーン」のパワフルさにはとにかく圧倒されますが、今回の「おどろおどろしい曲特集」で是非取り上げたいのは、マルコムXに自作の詩を捧げた3曲目と、5曲目のボサノバの名曲「イパネマの娘」の2つです。特に3曲目を暗闇で聴くとけっこうぞくぞくっとくるものがあります。突然入ってくるサックスの音とか、弱々しく響くギターの音色とか、太くて力強いベース音とか、そのどれもがとてもかっこよく、またとても気味悪くも美しいハーモニーを生み出しています。



 Super Nova / Wayne Shorter
アルバム名   Super Nova
アーティスト   Wayne Shorter
製作年   1969
レーベル   Blue Note
レコード番号   CDP 7 84332 2(輸入盤)

 ウェイン・ショーターは、ジャズ・メッセンジャーズやマイルス・バンドで活躍し、その後ウェザー・リポートというフュージョン・バンドで大成功を収めた名サックスプレイヤーです。今回の斑尾にも出演が決定しており(バックのミュージシャンの顔ぶれを見る限り、斑尾ではちょっとラテン寄りの演奏になるのでしょうか?)、彼の演奏もとっても楽しみにしているのですが、今回はそんな彼がウェザー・リポート結成前に作った作品を紹介します。

 ウェイン・ショーターの(特にこの頃の)音楽世界というのは、美しくて神秘的なんだけどちょっとおどろおどろしくて、薄気味悪いけど聴かずにはいられない魅力に溢れています。特にその傾向はこの作品に顕著に表れていて、その「音楽的混沌の中で異様な盛り上がりを見せる冷静な情熱」っぷりは、通常の音楽から一歩突き抜けてしまったような、そんな感覚さえ味あわせてくれます。3曲目の「ジンジ」で聴ける、混沌が収斂してマリア・ブッカーの素朴で力強い歌声へ流れて行くところ、そしてそれがまた混沌の中に突入していくところとか、聴いていると本当にぞくぞくしてきます。

 とはいえこのアルバムは、実は私にとって長い間その魅力が理解できない作品のひとつでした。それは彼のユニークなハーモニーのセンスが、なんかすごくとっちらかっちゃってる印象を与えていたせいなのですが、それがある日突然美しいと思えるようになり、そしてそう思うと今度は何回聴いてもたまらないとなってしまうのですから不思議なものです。それだけ奥深い魅力があるということなのでしょうが、アルバムには寝かせておいて初めてその真価が分かる場合もあるのだという好例だと思います。