マニラから帰国後、このコーナーではキップ・ハンラハンと林英哲のCDを取り上げました。しかし考えてみると、どちらもいわゆる「ジャズ」という音楽からはちょっとかけ離れた音楽である上に、ジャズ初心者向けのサイトで紹介するのには難しすぎたかもという点で無理のあるチョイスであったことは否めないと認識していたりします。というわけで今回はジャズ初心者でも気軽に楽しめるアルバムという点に焦点を絞り、レジーナ・カーターのこの(たぶん)最新のアルバムを紹介することにしました。

 レジーナ・カーターはデトロイト出身のジャズ・バイオリニストです。ジャズ・バイオリンといえば、古いところではステファン・グラッペリ、最近だと寺井尚子さんなんかが有名ですが、レジーナ・カーターのバイオリンはもっとずっとブルージーで、それ故に個人的には最もジャズらしく聴くことが出来ます。今までのアルバムでは比較的軽めのフュージョン寄りの演奏をしてきましたが、今回のアルバムではそうした彼女の『黒っぽさ』を前面に押し出した演奏をしています。

 特に私がかっこいいと思ったのは、テンプテーションズの名曲で、私が大好きなWas (not Was) もカバーしている「Papa was a Rolling Stone」をバイオリンで演奏しちゃってる点ですね。しかもこの曲にはカサンドラ・ウィルソンがボーカルで参加していて、あの渋い声でこのモータウンな曲を見事に歌っていて、なかなか聴き応えがあります。他には、最近大絶賛されているカメルーン出身のベーシスト、リチャード・ボナがゲストとして参加し、自作の曲を演奏した上にボーカルまで聴かせてくれているのも特筆すべき点でしょう。この曲は少しフュージョンっぽいんですが、彼の音楽に特有の「アフリカの大地に象徴されるような、おおらかだけど激しさも含んだ感覚」はレジーナのバイオリンでも見事に表現されていて、それが彼女自身の演奏の幅も大きく広げているように思います。他の曲はブルージーなものが多めですが、どれもその黒さが濃すぎることなく、初心者でも安心して楽しむことが出来ると思います。

 というわけで、最近の私がこのコーナーや「今月のオススメコーナー」で紹介していたアルバムを買って「失敗した!」と感じていたみなさんには、是非このアルバムを試して欲しいと思います。これで気に入ってもらえなかったら、その責任をとってこのサイトを止めるくらいの覚悟は、実のところ全くありませんが、たまには上品すぎないバイオリンを聴いてみたいと思っている人がいたとしたら、是非レジーナ・カーターのアルバムを買って欲しいと思います。個人的には『晴れた冬の日曜の昼過ぎに縁側で、お茶を飲みつつひなたぼっこしながら聴くのに最適な音楽』だと思っています。という意味で忙しい日常に追いかけられている人にこそ聴いて欲しいCDですね。「ああ、私は毎日忙しくってかなわんなー」と思っている人は、このアルバムとともにほっこりしちゃってみてください。