この『今週のオススメ』コーナーでは比較的名作の誉れ高い作品を中心に紹介していこうと思いつつも、ちょっと気を抜くと先週みたいに「マトモなジャズファンだったら決して取り上げることのない作品」をレコメンドしてみたりして、どうも方向性が定まらなくていかんなあ、とちょっと反省してみたりしました。そこで今週は、マトモな耳を持った人なら感服せずにはいられないフュージョンの名作を紹介することにします

 ジャコ・パストリアスは、ジャズ・ベースの世界に革命を起こした天才です。それまでのジャズの世界で(というか音楽の世界で)彼のようにベースを演奏した人はいませんでしたし、また今でも多くのミュージシャンの憧れの的であるほどそのテクニックは光り輝いています。彼はジョー・ザウィヌルやウェイン・ショーターが率いていたフュージョンの名門バンド「Weather Report」に加入してから一躍注目を浴び、その後ソロとして発表した第1作が、今回紹介するアルバムです。

 まず1曲目に聴くことが出来るチャーリー・パーカーの名曲「Donna Lee」での圧倒的なベース・サウンドに度肝を抜かれた後、ドライブには欠かせないノリノリの名曲「Come On, Come Over」へと続き、「Continuum」でちょっと落ち着かせてからストリングスの迫力ある美しさが光る「Kuru」へと流れていく様は、とにかく文句のつけようがないほどかっこいいです(もちろんこれ以外の曲も全てかっこいいのだが、書ききれないので省略します)。参加ミュージシャンもとても豪華で、ハービー・ハンコック、ブレッカー兄弟、ウェイン・ショーター、デビッド・サンボーンなどなど、ジャズ・リスナーならどんなシロートでも一度くらいは名前を聞いたことがあるようなビッグネームが並んでいます。

 このアルバムで聴くことが出来るジャコ・パストリアスの豊かでバラエティに富んだ感受性は、このまま生きていたらとんでもないミュージシャンになっていたことを白日の下にさらしているのですが、その後彼はドラッグに溺れ、溺れ過ぎちゃったせいでフロリダのジャズクラブのガードマンに撲殺されてしまいます。才能のある人がその才能を無駄遣いしているのを見ると、才能のかけらもない私などは何だかとても哀しい気持ちになるのですが、このジャケットで前をしっかり見据えているジャコの顔を見ていると、哀しさを通り越してとてもやりきれない気分になります。彼のような天才が早逝し、私のような凡人がのほほんと生き、その他大勢の無能な人々が天下の往来を我が物顔で闊歩しているとは、世の中というのは何と不条理で理不尽なものなのでしょう。しかしそんなことを考えるのは今しばらくやめにして、少なくとも今晩だけはジャコが残した美しい音楽に酔いしれることにしておきます。