最近の私は、キース・ジャレットかMMWかピアソラかボサノバしか聴かないという、非常に偏った音楽生活を送っています。失業時代は朝から晩まで音楽三昧な生活が出来ていたのですが、働きに出てしまうと「何に対しても一生懸命・真面目に誠実に全力で取り組んでしまう男」として定評のある私としては(って自分で言うなよ)、くたびれて家に帰ってきてからはいろんな音楽を聴く気になれず、若干不毛気味な毎日となっております。いかんですな。しかし、そんな生活でもみなさんにオススメできるアルバムがあるってところが私のすごいところで(だから自分で言うなよ)、今回はナラ・レオンのデビュー作を紹介することにします。

 ナラ・レオンは、ブラジル出身のボサノバ・シンガーです。2週間前に紹介したアストラッド・ジルベルトが『ボサノバの女王』と呼ばれていたのに対し、ナラは『ボサノバのミューズ(女神)』と呼ばれていました。とはいっても実は彼女はそんなに多くのボサノバ作品を残していません。というのも、彼女がデビューした頃というのは、ブラジルでは既にボサノバは下火になっていたからです。このデビューアルバムも、そういうわけで実はあまりボサノバっぽくない曲とかが含まれた作品となっています。

 では、何故そんなナラ・レオンが『ミューズ』などと呼ばれていたかというと、彼女はかなり裕福な家庭の娘だったそうで、どういう理由でかは知りませんが、彼女の住む高級マンションはボサノバ・ミュージシャンのたまり場になっていたんだそうです。ジョアンとアストラッドが出会ったのもこの彼女のマンションだったそうですし、そんな彼らがセッションを繰り返し作り上げた音楽がボサノバだったというわけです。しかしその後、ナラ本人はボサノバに背を向け、もっとラディカルな音楽運動に身を投じちゃったりするあたりが歴史の面白いところなんですが、そして彼女が純粋なボサノバ・シンガーとして活動したのは晩年(80年代になります)の5年程度に過ぎないのですが、とにかくこんな歴史的背景から、ナラは女神として認識されているというわけです。

 このアルバムは、解説によるとボサノバじゃないらしいんですが(歌っている主題とかがボサノバからはかけ離れているらしい)、曲を聴いた限り、シロートからしたら充分ボサノバな作品です。確かにボサノバにしては哀愁漂っちゃってる曲が多いのですが、リズムがサンバ調のものが多い上に、ナラの声はあまり太くないためにボサノバ特有の鼻歌感覚が堪能できるので、結構ボサノバだと錯覚できてしまうのです。そういうわけで、正統派ボサノバもそんなに聴いてない!という人にはあまりオススメできませんが、一風変わったボサノバを楽しんでみたいと考えている人は一聴の価値のある作品だと思います。