秋も深まってきました。ということは、だんだんバラードが似合う季節になってきたということでもあります。この季節に部屋にこもってひとりでバラードを聴いたりなんかしていると、私の場合はなんだか人恋しくなって自然と涙が溢れてきたりもするのですが、今回はそういう哀しい環境にいる人ではなく、公園を散歩するときに腕を組んで歩く相手がいるというような人が、ロマンティックに・うっとりと秋を楽しむのに適しているんじゃないかと思われる、チェット・ベイカーの名アルバムを紹介します。

 チェット・ベイカーは、このサイトの『最初の一枚』コーナーでも紹介している歌って良し、吹いて良し、ビジュアル良しというトランペッターです。ウェスト・コースト・ジャズの代表選手として、特にバリトン・サックスのジェリー・マリガンと組んで作った50年代前半や、ソロとしてマイルス以上の人気を誇った50年代半ばに絶頂期を迎えました。その後は麻薬に関するトラブルで低迷し続けたのですが、70年代半ばに奇跡の復活を遂げ、その後1988年に「ビルの2階から転落死する」というちょっと普通では信じられない理由で亡くなるまで、好不調の激しいミュージシャンとして(ってのは誉め言葉なのかなぁ?)その妖しい魅力を放ち続けた人でした。

 この作品は、ウェスト・コースト時代の絶頂期を過ぎ、チェット人気も下降線を辿っていた1959年に作られたアルバムです。もう既に彼が属していたワールド・パシフィックというレコード会社のドル箱スターではなくなっていたようで、この作品はこのレーベルがニューヨークのリバーサイドという別のレーベルに彼を貸し出して作られたものとのことです。この契約により、リバーサイドは4枚のアルバムを作ったのですが、これはその中でもチェットのトランペットの特徴であるクールな音色をフィーチャーしたバラード集となっています(というわけで、残念ながらボーカルは収録されていません)。

 このアルバムで聴くことの出来るチェットのトランペットはもちろん素晴らしいのですが、彼をサポートしているメンバーも非常に素晴らしいです。リズム・セクションはビル・エバンス、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー(もしくはコニー・ケイ)という豪華メンバーを集結させ、他のサイドメンもケニー・バレルやハービー・マン、ペッパー・アダムスといった当時の一流どころをずらりと揃えたオールスター軍団での録音となっており、その辺もこのアルバムを(当時の他のアルバムと違って)名盤に押し上げている理由だと思います。曲も全てスタンダードのバラードなので、初心者にも非常に聴きやすく、またジャケット写真を見るまでもなく、カップルで聴けば一層楽しめる作品となっています。もちろんカップルで聴ける環境にいない人が一人で聴いても楽しめる作品だとは思いますが、しかし聴いている途中で自分の不遇を嘆いて泣きたくなったとしても、当方では責任を持ちませんので、そこんところはひとつよろしくお願いします。