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私が大都会としては東京の何十倍も好きなニューヨークで、そして街としては私が最も面白いと感じた活気溢れるニューヨークで、あのような悲惨なテロ事件が起こってしまいました。ワールド・トレード・センターがなくなってしまったというとても信じられないような事実を生中継の映像によってまざまざと見せつけられ、私は座っていた椅子から立ち上がれなくなるほど愕然としました(思い出しただけでも体中の力が抜けていくのを実感できます)。今回のテロ事件はアメリカ国民、とりわけニューヨーク市民の心に、ぬぐい取ることの出来ないトラウマを植え付けてしまったと思います。また今回のテロ事件は、世界全体的に景気後退を押し進めそうですし、さらにこれからアメリカを中心とする西欧諸国(いちおう日本も含まれる)はテロ集団との戦争に突入していくという暗い時代を迎えそうな予兆すらあります。そういう世界中の人々が元気をなくしている現状で、最もハッピーになれそうな音楽は何かと考えたときに頭に浮かんだのが、今回紹介するフレッド・アステアのアルバムでした。
フレッド・アステアは、ほとんどの人はご存知だと思うのですが、多くのミュージカル映画に主演した俳優兼シンガー兼ダンサーです。とにかく身なり・身のこなし・しゃべり・ダンス、すべてが洗練された、まさにステレオタイプな『往年の映画スター』であり、ジンジャー・ロジャースと一緒に作った数々のミュージカルはとにかくハッピーで幸せな気分になれるものばかりです。
この作品は、そんな彼の絶頂期にあたる1930年代に制作された5本のミュージカル映画から、選りすぐりの16曲を集めたアルバムです。どれもハッピーで軽快なダンス音楽で、アステアのナチュラルな歌声と華麗なタップの響きを、全編を通じてたっぷり楽しむことができる作品です。またこうした曲の多くは、アメリカが誇る大作曲家にして、ジャズのスタンダードとしても定着した名曲を数多く書いているジョージ&アイラ・ガーシュウィンやジェローム・カーンの手によるものであり、当時の映画音楽のレベルの高さには本当にびっくりさせられます。
このアルバムに収録されている曲は、1935〜37年に制作・発売されたもので、したがって録音もモノラルで音も全然良くないのですが、だからこそ感じられる暖かみみたいなものもあって、聴いていると何となく幸せな気分になります。当時は世界大恐慌から5年くらいが過ぎ去ったあとで、きっと世の中はこういう最初からハッピーエンドだとわかっている映画を求めていたのだと思います。今の日本も長いこと不況を引きづり、また今回のテロ事件でさらに(日本だけにとどまらず、世界的に)出口が見えなくなったりしていますが、そういうときこそこういうとにかくハッピーな曲を聴いて、元気を出していきたいものだと思います。今回のテロで心に傷を負ったであろうアメリカ人も、彼らの社会が生んだハッピー・ソフィスティケーテッド・ダンサー、フレッド・アステアでも聴いて(そして映画を観て)、またいつもの傲慢さを取り戻して欲しいものだと思います。
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